余白の先にある体験。前川正人さんと考える、YAKの魅力とBetterな暮らし

THE COMMON GLOBAL THE LAB HUB #02|Meet YAK. Touch YAK. Feel YAK.

素材との出会いは、知ることから始まり、触れることで深まり、人との対話を通じて新たな発見へとつながっていく。

10月24日、THE COMMON GLOBAL THE LABで、第2回目となる「THE COMMON GLOBAL THE LAB HUB #02」を開催しました。

今回のテーマは、ヤクという素材との出会い。原料や素材、プロダクトに実際に触れながら、その魅力をさまざまな角度から体験していただく一日となりました。

会場では、アーティスト・前川正人さんによるYAKをテーマにしたライブペインティングも実施。目の前で描かれていく作品を通じて、素材の魅力を新たな視点から捉える機会が生まれました。

今回注目したいのは、完成した作品だけではありません。前川さんがYAKをどのように表現したのか、なぜビジュアルに余白を残すのか。そして、素材との出会いが、私たちの日々の暮らしにどのようにつながっていくのか。

ライブペインティングを通じて見えてきた、表現と体験、そしてBetterな暮らしについて考えます。

素材を表現するということ

素材の魅力を伝える方法は、ひとつではありません。

特徴や機能を言葉で説明することもできれば、実際に触れてもらうことで、その感触や風合いを知ってもらうこともできます。さらに、アーティストの視点を通して表現することで、情報だけでは伝わらない素材の印象や、新たな見方を提示することもできます。

今回のHUBで取り上げたYAKも、そうした多角的な体験を通じて、その魅力に触れてほしい素材のひとつです。

THE COMMON GLOBAL THE LABでは、素材やテクノロジーそのものを紹介するだけでなく、それらが人の暮らしにどのような価値をもたらすのかを考えることを大切にしています。

そのためには、情報を一方的に伝えるだけでは十分ではありません。実際に素材に触れ、自分なりの感覚で受け止め、背景にある考え方を知ること。その過程を通じて、素材への理解はより深まっていきます。

今回のライブペインティングも、YAKの特徴を説明するためのビジュアルをつくることだけが目的ではありません。

前川さん自身が素材と向き合い、どのように解釈し、自分の表現へと変換していくのか。その制作過程や完成した作品に触れることもまた、来場者にとってYAKとの新しい出会いになります。

素材を知ることと、そこから何かを感じ取ること。その両方があるからこそ、素材との関係は広がっていきます。

あえて余白を残す。体験の続きをTHE LABで

今回のクリエイティブを考えるうえで重要なのが、「余白を残す」という考え方です。

ビジュアルの中ですべてを説明し、完結させるのではなく、あえて余白を残す。その余白は、見る人の想像力に委ねるためだけのものではありません。THE LABを訪れ、実際に素材に触れ、人と話すことで、初めて完成する体験のための余白でもあります。

YAKの魅力は、ビジュアルや言葉だけですべてを伝えきれるものではありません。素材に触れたときの感触や風合い、プロダクトとして身につけたときの感覚。そして、スタッフとの会話を通じて知る素材の背景や、開発に込められた考え方。実際にその場に足を運ぶことで、初めて得られる発見があります。

だからこそ、クリエイティブですべてを語り尽くす必要はありません。

あえて伝えきらないことで、「これは何だろう?」「実際に触れると、どんな感触なのだろう?」という興味が生まれ、その先の体験へとつながっていく。

ビジュアルですべてを完結させるのではなく、THE LABでの体験へとつなげる。それが、今回の表現に込められた意図のひとつです。

素材と出会い、実際に触れ、スタッフとの対話を通じて理解を深める。今回のHUBでは、ビジュアルを入口として、その先にあるリアルな体験を楽しんでいただくことを目指しました。

余白は、何かが足りない状態ではありません。その先にある体験へと人を導くための、意図的な設計です。

キービジュアルやステッカーとは異なるレイアウトを選ぶ理由

今回、もうひとつこだわったのが、イベントのキービジュアルやステッカーとは異なるレイアウトをあえて選んだことです。

ひとつのイベントやキャンペーンでは、ビジュアルの統一感が重視されます。同じデザインをさまざまな媒体に展開することで、認知を高め、共通のイメージをつくることができるからです。

一方で、すべての接点を同じデザインで統一することが、必ずしも最適とは限りません。

キービジュアルにはイベントの世界観を伝える役割があり、ステッカーには手に取って持ち帰るものとしての役割があります。そして、THE LABへと人を誘うクリエイティブには、訪れるきっかけをつくり、その先にある体験への興味を喚起する役割があります。

それぞれの役割が異なるのであれば、表現のあり方もまた、異なっていていい。

既存のデザインをそのまま踏襲するのではなく、その表現が何を伝え、どのような行動につながるべきなのかを考える。今回のレイアウトへのこだわりも、単に見た目に変化をつけるためではなく、表現の役割を捉え直すことにつながっています。

すべてをビジュアルの中で説明しきるのではなく、見る人の興味を引き出し、実際にTHE LABへ足を運んでもらう。その先でスタッフと話し、素材に触れ、新しい発見をしてもらう。

クリエイティブは、情報を伝えるためだけのものではなく、人を体験へとつなぐための入り口でもあります。

ブランドの世界観を共有しながらも、表現する場や目的に応じて、その見せ方を変えていく。統一することと、個々の表現の可能性を広げること。その両方を成立させることも、クリエイティブの重要な役割です。

自分の中で「合格点」を出せた一日

ライブペインティングを終えた前川さんは、今回の作品について、自分の中では「ギリギリ合格点」だったと振り返ります。

普段は、自分が描いた作品に対して、なかなか合格点を出せないという前川さん。自分自身が納得できる表現を追い求めているからこそ、完成したという事実だけでは満足できないのかもしれません。

そんな前川さんにとって、今回の一日が印象深いものになった理由は、作品への手応えだけではありませんでした。

振り返ってみると、会場全体に流れていたあたたかな空気が、とても大きかったといいます。

制作を進めるなかで、スタッフにさまざまなお願いをする場面もありました。それでも、誰かが嫌な顔をするのではなく、自然に声を掛け合い、みんながそれぞれに動いていた。

来場者同士の会話も、心地よいBGMのように会場に響いていたそうです。

「そのあたたかい空気感、そういうのはすごいいいなって。そういう空気でいくと、逆に集中できるので」

前川さんの言葉から伝わってくるのは、表現に集中するためには、技術や個人の能力だけでなく、それを取り巻く環境も大切だということです。

ライブペインティングは、アーティストが一人で作品を描き上げる行為であると同時に、その場にいる人たちと時間を共有する行為でもあります。

見る人の反応やスタッフとのやりとり、会場の雰囲気。それらすべてが、作品を取り巻く環境をつくっています。

今回のHUBで生まれたあたたかさは、ただ居心地がよいというだけではなく、前川さんが自分の表現と向き合い、集中するための土台にもなっていたようです。

予定どおりにいかないからこそ、見えてくるもの

実は今回、前川さんにとっては、振り返るのが難しいほどトラブルが続いた一日でもあったそうです。

それでも、最終的には、そうした出来事さえもネタにできたといいます。

予想外のことが起きたとき、それをどう受け止められるか。余裕のない環境では、目の前の問題に追われてしまうこともあります。一方で、周囲に安心感があり、互いに助け合える環境では、想定外の出来事も、その場をつくる一部として受け止められることがあります。

前川さんが感じたあたたかさは、単に居心地がよかったということだけではありません。制作に集中し、自分の表現と向き合うための土台になっていたのではないでしょうか。

一人のアーティストが作品を完成させるまでには、目に見える制作の時間だけでなく、さまざまな人の関わりがあります。そして、その関わり方によって、同じ場所でも生まれる体験は変わります。

今回のHUBで印象的だったのは、スタッフも来場者も、それぞれが自然にその場に関わっていたことでした。

人が集まることで空間が生まれ、その空間がまた、人の行動や表現に影響を与えていく。

前川さんの言葉は、そんな相互の関係性を感じさせてくれます。

前川さんにとっての「Better」とは、生活そのもの

THE COMMON GLOBALが大切にしている「Better」という考え方。それは、素材や技術を進化させることだけを意味するのでしょうか。

今回のインタビューの最後に、前川さんにとって「Better」とは何かを尋ねました。

前川さんの答えは、「生活そのもの」。

Betterという言葉から、より優れた技術や機能、何か特別な変化を想像することがあるかもしれません。しかし、私たちが日々身につけるもの、使うもの、そして人と過ごす時間もまた、生活をつくる大切な要素です。

素材の選択が、日々の心地よさにつながること。自分にとって本当に必要なものを知ること。何気ない日常の中で、新しい発見や楽しみが生まれること。

そうした一つひとつの積み重ねが、生活をよりよいものにしていきます。

今回のHUBでYAKに触れたことも、ライブペインティングを通じて新しい表現に出会ったことも、スタッフや来場者との会話から生まれた気づきも、特別なイベントの中だけで完結するものではありません。

そこで得た感覚や知識が、これから何を選び、どのように暮らしていくかにつながっていく。素材を知ることは、単に素材について詳しくなることではなく、自分の生活を見つめ直すきっかけにもなるのです。

THE COMMON GLOBALが目指しているのも、科学やテクノロジーの進歩そのものを伝えることだけではありません。それらが人の生活にどのような価値をもたらし、日々の選択をどう変えていくのかを、実際の体験を通じて考えることです。

ビジュアルに余白を残し、その先の体験を来場者に委ねること。素材に触れ、スタッフと対話し、自分なりの発見を持ち帰ってもらうこと。

そのすべてが、生活の中に新しい視点を生み出すための入り口です。

Betterは、遠くにある理想だけを指す言葉ではありません。毎日の暮らしの中で何を感じ、何を選び、どのような時間を過ごすのか。その積み重ねの中にこそ、一人ひとりにとってのBetterがあるのかもしれません。

THE COMMON GLOBAL THE LABは、これからも人・知識・素材・アイデアが交わる場として、素材を知ることから始まる新しい発見と、よりよい暮らしにつながる体験をつくっていきます。

Betterは、日々の生活の中にある。

THE LABから、世界へ。

前川 正人(まえかわ まさと)|Masato Maekawa

クリエイティブ・ディレクター/イラストレーター/画家

1975年生まれ。

アパレルブランドのVMD、PR企画・運営、ブランディング、商品開発など、ブランド全体のクリエイティブディレクションに携わる一方、独学でイラストレーターとして活動を始める。

2014年に独立し、2020年に〈tAnkers Inc.〉を設立。

レコード・CDジャケットのアートワークをはじめ、企業・ブランドロゴの制作、空間演出、VMD、商品開発、広告・販促物のディレクション/デザインなどを手掛ける。

ファッションを中心に、ライフスタイルや伝統工藝など、さまざまな分野のクリエイティブに携わっている。

2025年に初の個展を開催し、画家としての活動を開始。

2025年2月 初個展「FAITH」at HIBIYA CENTRAL MARKET

2025年10月 毛塚治虫(ガリットチュウ福島)二人展「SYMBOLS」at DAIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERY

2026年2月 MEI AOYAMA 二人展「交歓」at CANTERA

2026年9月 This is a(n) × Masato Maekawa「PAINTED PIECES」at SELECT by BAYCREW’S

Instagram

@masato_maekawa

https://www.tankers.jp/

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